2001年6月18日
この本を知っていますか?たぶん知らないでしょう。本書は1974年にアメリカで発売されベストセラーになりました。 題名からしてうさんくさいですが、東洋哲学っぽい雰囲気のタイトルをもつ一風変わった小説は、ヒッピーカルチャー終焉間近のアメリカで受けたようです。
私がこの本を知るきっかけになったのは例のフィル・ジャクソンの著書で、ジャクソンがプレーヤーたちに知的な刺激を与えるために遠征先で本を読ませた、、、みたいな件に出てきたからです。 私は原書をカナダで見つけましたが、かなり難解な内容でまったく読めず、日本で翻訳版を買ってアメリカで暇つぶしに読みました。
タイトルに「禅」とありますが、別に禅の解説書でもなんでもありません。 おっさんと子供が、バイクでアメリカを旅しながら、人間と世界の根本的な関わりを考えていく、、という話で
「子連れ狼」と「イージーライダー」と「ソフィの世界」を足して3で割ったような話です。
しかしこのおっさんっていうのは実は著者のことで、この話ほとんど、自伝なのですが、彼の半生は相当数奇に富んでいます。
この人、パイドロスと名づけられている過去の自分は哲学研究家をやっているうちに精神を病んでしまい、当時一般的だった(現在では違法らしい)電気ショック療法でそれまでの人格がどっかへ行ってしまい「別人」として生きなければならなかったらしいのです。 いやー、一昔前はすごい医療をやっていたものです。他にも分裂症の治療法で脳梁(右脳と左脳をつなぐやつ)を切断してまぎれもなく本格的な人格障害になったとか(そりゃ聞いただけでもなりそうな治療法だ)聞いたことがあります。 とにかくお父さん、もしくは旦那が、退院したら別の人になってたわけだから、こりゃあ家族はたまったものではありません。
「私は今の私であって昔の私ではない」
という、大川○法状態です。 おっさん、つまり元パイドロスと息子の旅も、どうも親子関係の修復、いや再構築の旅のようです。で、その旅をしながらパイドロスには失われた人格の記憶が去来してくるわけです。自分だったころの自分が何を考えていたのか、それを自分で探す旅というわけです。 ややこしい。とにかく、パイドロスだったころの彼のテーマは、人間の「価値観」という聞くからに根源的なものでした。なぜ、ある文章が他のものより優れている、と言えるのか?文法上整っているとかいろいろと理屈はつけられますが、美的に「優れている」ということを論理的に説明するのは確かに大変です。「良さ」とは何か?、まさに美学的、認識論的な問いです。当然私には説明しきれないのですが、パイドロスが言うところの「クオリティとは何か?」という問いを、他でもない元パイドロス本人がパイドロス時代の記憶と、自分の知識で検証するという、バック・トゥ・ザ・フューチャーもびっくりのややこしい話なのです。
しかし、内容的には意外にも読みやすく、700ページ近い本を一気に、、、いやけっこうかかるが読めます。知的な刺激を受けたい人にはお勧めです。 旅行記というか、哲学書というか、エッセーというか、、、不思議な本です。 しかしこの本をジャクソンにいきなり読めといわれた選手も困ったことだろう、、、 いやー、ジャクソンはヒッピーだった、、、はますます本当でしょう。
で、作者のパーシグさん、、、結局本書にでてくる息子さんを、不慮の殺人事件で無くしたらしいのです。 はー、、、いくらベストセラー作家になれたとはいえ、、、ついてない人生です。
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