2001年5月18日
今日は日本人コーチの名著を紹介しましょう。どうも私たちの悪い癖で、何かというとすぐに
「やっぱり向こうではコーチングは○○ですか?」
「向こうのコーチングライセンスについて知りたいんですけど?」
などと、漠然とした「向こう」に理想郷があるかのような話をしたがります。ホッケー(スポーツ)先進国に少しでも学びたい、という気持ちはわからないでもありません。しかし、「向こう」もいろいろです。BCとオンタリオ、ケベックにはまったく違うホッケーの土壌があります。ましてやアメリカのホッケーは組織から何から全然違います。コーチだってプレーヤだって様々です。数々の名将、名プレーヤーと共に、とんでもないおっさんだってチンピラだってコーチをし、プレーしているのです。
「向こうのコーチはこう言った」
とすべてを「向こう」と一くくりにしてしまう考え方は、自ら考えること、生み出すことを拒否することであり、所詮は自分は日本人であり日本人にはこの程度しかできない。仕方がない。との諦めを許す弱さが根底にあるのです。 学ぶ、ことは重要です。しかし、自分で生み出し、自分で教える、のがコーチの役目です。「向こうの国」はホッケーを教えてくれません。我々には我々しか思いつかないような発想があるかもしれないのです。
そうです、別に逆でも良いじゃりませんか。素晴らしい発想を生み出し、教えてあげればいいのです!! というわけで、それを実現してしまった日本人の著書です。
「最新コーチング読本−コーチの心理学−」
(武田建 著、ベースボールマガジン社)
武田氏は臨床心理学の分野で長く活動しながら、関西学院大学(同高等学校)アメフト部の監督として数々の戦績を上げた知将です。行動心理学や認知心理学を応用したコーチング理論は海外でも高く評価され、全米フットボール協会のカンファレンスで講演するという、アメリカのフットボールコーチたちの夢を実現してしまったのです。 こんなことを書くとなにやら小難しい本のようですが、実際はとてもわかりやすいものです。例えば
「なぜこんな場合には誉めると伸びるのか?」
「コーチが手本を見せることの意味は?」
「コーチがカウンセラーのように子供と接するには?」
などという、今までは合理的説明がつけられていない、単に経験論の部分を、心理学的裏づけによってわかりやすく解説しているのです。おそらくもともと心理療法好きな北米の人々にはとても受け入れられやすい理論だったのでしょう。
「誉めると伸びる」
「ではいつでも誉めていれば良いのか?」
「しかって伸びる子もいるはずだ?」
」というよくある質問の答えもちゃんと出ています。
「常識の延長線上に勝利はない」
とは、数々の独創的理論と、卓越したプロデュース能力で男子バレーを世界の頂点に導いた松平康隆氏の言葉です。 彼はバレーボール理論を学びに行ったソ連で、最新理論を学んだといい気になっていたら、ウラジミール・A・エイヌゴルン氏という当時屈指の監督に、
「僕が見せたのは高さとパワーのあるロシア人が世界一になる方法論であって、日本人が勝つためのものではない。僕の物真似したって日本は勝てないよ。君のオリジナルの方法論を考えなきゃダメだ」
とたしなめられて、独自のコーチング論を開発する重要性に目覚めたとのことです。本書を読めば、コーチングに関する着眼点の鋭さ、斬新さは、別に「向こう」の専売特許ではないことがわかるはずです。「向こう」の理想郷を追い越すには、憧れやマネではなく、独創的な視点が必要です。と、自分に言い聞かせるコーチ・ヘローキィであった 。
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