Question

Q31:ホッケーママの疑問に答えて!!

(前略:実はこの質問はホッケーの練習におけるストレッチングの重要性から始まりました。。。。そして質問はこんな方向に転回していったのでした。。。)なお質問内容は多少編集してあります。

実は息子は昨年初めてカナダでキャンプを取りました。カナダでは「楽しいホッケー」というものを体験できたようです。そしてインストラクターのプロ意識の凄さにわたくしは驚かされました。食生活から自己管理などリンクサイドでたばこをふかす我々のコーチ陣に見せてあげたいくらいでした。

(中略)

ある時息子は、コーチにスキルに関しての質問をしました。丁度、息子のスキル欲などがでてきた頃です。(当時はアイスホッケーマガジンも購読しておりませんでした)息子はスラップショットについてやり方の質問をしましたが、結果として子供には何も教えてくれませんでした。コーチに親のわたくしが呼び止められ「そのような質問を今からしてくる、というのは凄いと思いますが、ここでやり方を教えてしまうと小さい選手にしかならないんです。自分のホッケーができなくなるんです。」というような説明をされました。それもその時は理解し、納得できたのですが、、、。

しかし、その後、カナダのキャンプではフェンスに向かい、instruction中、全員がスラップショットをしたり、元NYRのインストラクターは事こまかに、いろいろな他のシュートも教えてくれたそうです。
このような日本とカナダのホッケーコーチングの違いについて、どのように考えますか?
(疑問でいっぱいのホッケーママ)

Answer

さて、回答をする前に、私の意見の前提を明らかにしておきます。

それは「ホッケーに理想郷なし」ということです。何事もまず「ホッケー王国カナダ」と「日本」を比べることから始めるのは、本当に有意義な教育をする弊害にこそなっても足しにはなりません。つまり、「日本の現状はダメでカナダはやっぱりすごい」というのはかなり思いこみなのです。私はカナダやアメリカのチームに「ホッケーを教える」という立場で関わっています。もちろん彼らのシステムから学ぶものはたくさんありますが「おいおいそれでもホッケー先進国かよ‥」と呆れさせられることも多々あります。

例えば、ご質問のストレッチに関して、私はカナダで練習中にちゃんとストレッチを取り入れているチームを、マイナーホッケーでは殆ど見たことがありません。全然やっていないし、教えていないチームが殆どでした。そしてさして気にされていません。(ジュニアメジャーやプロのチームはそうでもないですが。念のため)

練習時間が足りないのは日本だけとお思いかもしれませんが、カナダのホッケータウンでも事情は一緒です。私がいたカナダ屈指のホッケータウン、ピーターボローでは、子供たちは1回50分の練習を週2回するのがやっとでした。これでは満足な教育などできようはずがありません。試合が多すぎて練習ができないのです。だから非常に基礎技術が不足した子供たちがあふれています。

ですからカナダでホッケースクールが盛んなのは、通常のチームでは満足な教育が行われていないからといっても過言ではありません。コーチのライセンス制は確かに日本に必要とされていることですが、カナダのライセンス制度も、実はかなりあやしいものでした。試合中ベンチにはいるために必要なコーチレベルのライセンスは(私も取得しました)言ってみれば車の免許と同じで(いやもっと簡単だ)、誰でもとれます。内容も本当に最低限のものです。もちろん日本ではその最低限のものがかけているのが実状ですが、それはライセンス制そのものに問題があるのではなく、コーチの勉強する意志が絶望的に欠けていることが問題なのです。

カナダはホッケーを教えてくれません。ライセンスはホッケーを教えてくれません。教えるのは常に1人のコーチです。学ぶのも1人のコーチです。それがカナダ人であれ、日本人であれ。

> インストラクターのプロ意識の凄さにわたくしは驚かされました。

ということで、お金をもらっているホッケーキャンプのインストラクターがプロ意識を持ってやっているのは当たり前です。カナダにも「ちょっと、、、なあ」と思うコーチたちはたくさんいます。いや本当に。もちろんアマチュアのコーチでも見習うべきですが。

> 結果として何も教えてくれませんでした。コーチに親のわたくしが呼び止められ「そのような質問を今からしてくる、というのは凄いと思いますが、ここでやり方を教えてしまうと小さい選手にしかならないんです。自分のホッケーができなくなるんです。」というような説明をされました。

この問題には二つの側面があります。

まず「それがどのような内容であれ、子供の質問に対して、直接子供が納得いくように答えられないようではコーチとしての責任から逃げていることになる」ということです。

> ここでやり方を教えてしまうと小さい選手にしかならないんです。自分のホッケーができなくなるんです

というのは判ったようで判らない答えの代表です。おそらく言った本人も意味が判っていないでしょう。「小さい選手?自分のホッケー?」では誰にも理解できませんし、説得できません。例えば「シュートの習得方にも段階があるから、今はリストシュートを習得する方がスラップシュートを習得するより大切です」とか「スティックをしならせる以前に腰の回転に集中すべきだ」とか、分かるように説明すべきです。そうでなければ、この回答はただの逃げです。

次に、カナダ(という言い方はイヤなのですが)のホッケースクールで子供のうちに技術練習を徹底的にさせるのは、、、、技術を習得できる時期は子供のうちだけだからです。「技術のゴールデンエイジ」という言葉が最近やっと日本でもサッカー界を中心に普及してきました。スポーツに必要な技術能力をつかさどる、いわゆる「運動神経」が発達するのは6-10才までなのです。「子供は飲み込みが早い」のはそのためです。マネさせて、正しく教えれば、小さい子供にはすぐにできるようになるのです。例えば高校生になってから高度な技術を習得しようと思っても、それはそれは大変な努力が必要になります。なのに、その一番大事な時期に、子供に技術練習をさせないで、走らせて体力ばかりつけさせているのが日本のスポーツの諸悪の根元の一つです。中学生くらいになると心肺機能系や筋肉が発達し出すので基礎体力を付けるのには最適な時期になってきますが、それでも技術練習は欠かせません。

実は、、そのゴールデンエイジにカナダでは別の問題を抱えています。技術練習をさせずに試合をさせすぎるのです。彼らの「試合をさせて楽しくホッケー」というのはそれはそれで問題のある考えなのです。実際に子供の試合は本人も親も楽しいでしょうが、十分な技術が伴わぬまま試合に駆り立てられて、楽しめないまま辞めていく子供たちがものすごく多いのです。また試合は始まれば「勝利至上主義」にならざるを得ませんので、今度は小さい子供に大人のようにチームプレーを教え込み、想像力のあるプレーを制限してしまうという弊害が生まれます。カナダでも最近NHLで活躍するヨーロッパ選手の技術力の高さに圧倒されて「試合させてばかりじゃいけないんじゃないの」という議論が出てきています。

私はスポーツは、上手くなる楽しみと、プレーする楽しみと、勝つ喜びの、バランスを取りながら教えるべきだと思います。どれに重きがおかれ過ぎてもいけないと思います。

あまり回答にはなっていませんが、これが子供への技術指導に関する私の考えです。
ちなみに私はご質問の内容である当事者たち(そのコーチやカナダで参加したホッケースクールなど)のことは直接知りませんので、勝手に一般論として書いているだけです。特定のコーチやチームやカナダや日本のホッケーを批判しているわけでは決してありません。

それでは。