Book Review Title

「シカゴ・ブルズ勝利への意識革命」 (フィル・ジャクソン著、PHP研究所)

バスケと禅!?

原題は「Sacred Hoops(聖なるフープ)」ということで、ちょっと精神世界を感じさせるものです。
それはもちろん、ジャクソンが禅の精神を北米のコーチングの世界に持ち込み一躍注目されたところから来ます。

というか、マイケル・ジョーダンをして「私がチームに残る条件はフィルが監督を辞めないことだ」と言わしめた男が禅とか何とか言ってるよ、ということで注目されたと言うべきでしょうか。しかしバスケになぜに禅??そういえばメントレの話も最終的には禅の呼吸法とかそういう世界に行きがちです。

なぜ? 日本のジャーナリズムが欧米のコーチングを取り上げるときは「日本式の型にはめる指導ではなく、個性を生かすプレー」とかわいく言ってますが、私は実際北米で指導した経験上、やつらの個性は個性を越えてわがままである場合がほとんどだといえます。一流ならまだしも三流のガキでもコーチの指導法には堂々と逆らい、そして自分の責任は余裕で放棄することなんてよくあることです。とにかく扱い辛いったらありません。私が見てきた中でもいろいろありました。大事な試合でバカな反則をとられた子をそのあとベンチに下げたら、逆切れされた...とか、それを見ていた親がコーチに切れたとか、チームの中心選手が「疲れた」といって肝心なときに出場を拒否したりとか、まったくもって自己中なのです。

というわけで、特に北米のコーチングでは、選手たちの自我をいかに押さえ、チームに貢献させるか、ということが大きな課題になります。
「一人一人がチームのことを考えてプレーすれば、最終的にはその恩恵が一人一人に帰ってくる」ということを理解してもらうのが、大変なのです。

ジャクソンはそのへんのヒントを「無私」「諸行無常」などという禅の精神や、ネイティブアメリカン(ホピ族やスー族など)の教えに得たらしいのです。 ジョーダンなければジャクソンの栄光なし...みたいに言われることも多い人ですが、実際には彼は一人のスーパースターの才能に頼るバスケに愛想を尽かしてコーチを辞めかけたことがあり、一人一人の才能の総和以上の何かをチームに見出す方法を、つまりジョーダンに他人を使ってプレーさせることを学ばせる過程で、ヨガや禅の教えを活用したそうです。

ここら辺の展開は、アプローチこそ微妙に違えど、実は次回に紹介するパット・ライリーとマジック・ジョンソン、カリーム・アブドゥル・ジャバーの関係に似ており、「北米のスポーツコーチングにおける成功の鍵」が見えてくるような気がします。

悟りへの道は遠し...

なんだかすごそうですが、結構笑える箇所もあります。マイナーリーグのコーチ時代、敵地の薄気味悪いロッカールームで試合前に瞑想していたときのこと、大の苦手である蜘蛛が、しかもソフトボール大のオオツチグモがぶら下がっているのを発見!!!恐怖と戦いながら蜘蛛が壁を這っていく瞬間を凝視し、その瞬間心の平安が得られたとか...。ほんまかいな? そりゃあ日本語では「身がすくんだ」って言うのではなかろうか...?

最近ジャクソンはロサンゼルス・レイカーズの監督に就任。問題児だったスター選手シャキール・オニールに焼きを入れ、チャンピオンチームに仕立て上げました。大したもんです。でもレイカーズのオーナーの娘(もちろん20歳以上年下)と不倫したとかしないとかでも話題になりました。...この人、意外と悟りへの道は遠そうです。