Book Review Title

「超芸術トマソン」 (赤瀬川原平著、ちくま文庫)

順番的にはトルシエさんの本の次にいきなりこんなのが出てきてビックリするかもしれませんが、この本、10月くらいから非常にマイブーム(死語)でした。これぞ前衛的思考、アナーキー的手法による在り来たりの思考法の打破で感動です。

著者の赤瀬川原平さんはいわゆる前衛芸術家で、社会をちょっと普通じゃない角度から眺めて、しかも大真面目に考察してしまう作品&概念群で知られています。一般的には、「千円札の柄を印刷した包装紙で包んだ作品を「芸術」と称して発表して、紙幣偽造=偽札作りで訴えられた人」で有名なようです。この人は作品という形で芸術活動を行なうだけでなく「路上観察学」やら、最近では「老人力」などという変なコンセプトを世間に提唱して話題をさらっています。さらに尾辻克彦の名前で作家としても活躍し「父が消えた」では芥川賞も受賞している才人です。

トマソンとは何ぞや?

「トマソン」とはのちに路上観察学へと発展していく概念で、本来芸術的目的で作られたものでなく、さらに現在も有用性がないのに、どこか芸術的な雰囲気がする不動産(電柱や、階段や、門なんかの残骸)を意味します。

例えばもともとある家の入り口に上がっていく機能を持った階段が、家の構造の変化により入り口が塞がれ階段が壁に直結するような形で残ったとすれば、それは「無用階段」です。いうなればそれは取り壊されていないだけの階段で、ただのゴミですが、なんかわからないけど一応見た目が悪くないように補修してあったりすることがあります。本来の目的を失ってしまっているが、しかしどことなく美く保たれている構造物...。それは作者のいない芸術になるわけです。ですから「超芸術」であるということになります。

なにやら小難しいことを書いているようですが、写真を見れば一目瞭然。空に向かって立ち尽くす純粋階段、渡った先が行き止まりになっている純粋橋、ビルの壁面にバーンとついている、開けて降りたら死んでしまうドア、などなどは、あなたを否応なき笑いに引き込みつつ、どこか美しさを感じさせてくれるものばかりです。

あー、結局赤瀬川さんは芸術を作者の手から解き放ち、無目的のものに美的な側面を発見するのも芸術だといいたいわけだ...と思います。

この本は彼が写真雑誌に連載していた日本各地のトマソン物件紹介を単行本化したものらしく、トマソンという概念が、面白おかしく、しかし壮大な芸術の思考実験として育っていく様が分かりとても楽しめます。最初はなんだか面白いって感じで始まった路上物件の観察が、トマソンという言葉で概念化され、なんだか面白学問のようになって日本中の人を巻き込み、そしてだんだん形骸化されて新鮮さを失いそうになり、それをまた引き戻そうとする...。「何か面白そう...」という胸騒ぎから生まれたトマソンという概念を日本中に探していくうちに「胸騒ぎも感動もないのに条件を満たすだけでトマソンにしてしまう」のはいけないことだ!!と自戒しているところは非常に興味深く読みました。

これって、ある新しい概念が誕生したときに必ずたどる道じゃあないですか?

ま、この本はいろいろ言うよりとにかく写真を見て欲しいので是非購入をおすすめします。発想は常に柔らかくありたいですね!