Book Review Title

「世界を変える七つの実験」 (ルパート・シェルドレイク著、工作舎)

この本を探そうとしているうちに部屋の片づけに突入してしまい、半日つぶれてしまいました。でもだいぶん部屋が広くなったような気が...

今日はガラリと視点を変えて、80年代後半から90年代にかけて生命科学のみならず、科学界に賛否両論の議論を呼び起こした天才ニュー・サイエンティスト、ルパート・シェルドレイクの著書をご紹介します。シェルドレイクは1981年に出版した「生命のニューサイエンス」(ルパート・シェルドレイク著、工作舎)がイギリス科学界で大問題となり、科学誌の大権威である「ネイチャー」からは「焚書ものだ!!(こんなエセ科学本は燃やしちまえ)」と大批判されます。しかし一方では科学の常識を打ち破る天才と褒め称えられ、彼の説を実証するための公開テレビ番組が国際的に放送されるなど、一躍時の人になった、そうです。 彼の著作がなぜここまで話題になるか... それは彼がいわゆる「トンデモ科学」「超常現象」の域を、大胆な科学的仮説で説明しようとしているからです。

科学とはなんぞや?

まあいわゆるUFOであるとか、死後の世界であるとか、テレパシーであるとか、そういうことを科学的に解明しようとする人たちは別に今まででも腐るほどいたのですが、大抵の人たちは「そもそもそんなことを信じるやつは合理的思考ができないアホだ。こういうエセ科学が世の中を悪くする」というスタンスです。逆に超常現象肯定派の科学的根拠は、どうしようもないくらいにレベルが低いというのが常で、テレビなんかでよく戦わせている議論(???)は酔っ払ったオヤジに喧嘩を売られたやつが囲碁で勝負しようとするような論点のかみ合わなさが非常に愉快でもありました。だいたい、信じる、信じないというレベルで科学を扱うことがどうかしています。(ところが科学というのは深い部分では結局は実は信じる信じないのレベルなのです!!!)

で、シェルドレイクの鋭い点は、「超常現象のほとんどは、非科学的なのではなく、科学で扱われないべきタブーとされてきたので、科学的に検証されたことがないだけだ」と言い放ち、さらに、「もし既存の科学理論で説明できないならば、私がもっと大きい仮説を出してあげます!!」と言ってしまったことにあります。

例えば、「伝書鳩が正確に帰巣するのはなぜか?」ということには、意外にも科学的に隙のない理論で説明されていません。星座を見るとか、脳内に磁石があるとか、いろいろな仮説があっても、どれも結構簡単に反駁されてしまうものばかりで、しまいには「遺伝子内に地図がマッピングされている」という説明で終えてしまう説もあるほどだそうです。要するに説明になっていないのです。

その他、「シロアリが左右から正確にアーチ型の巣を組み立てられるのはなぜか」とか「視線を感じる」ことはあるのか?とか「思いが伝わる」ことはあるのか?など、誰もが日常的に感じすぎていて、かえって実証されてこなかった疑問が提示されます。 シェルドレイクはこれら全ての説明に、関係の深いもの同士が共有し、離れていても作用しあうする目に見えないつながり「形体場」という仮説で答えようとこころみています。ほーら来た、って感じでインチキっぽいのですが、実は「磁場」だって似たようなものです。

彼は「科学は出来上がったものではない。分からないものを説明するために、未知の仮説を大胆に立てることは、反科学的なことではない!」と主張しているのです。詳しくは本を読んでいただくとして、私はこの人のアナーキーっぷりがとても気に入っています。真理や本質は絶えず変わるものであり、近代的な真理の基準とされてきた科学もこの例外ではない、ことは自然、人文両科学史の研究で明らかになっています(パラダイム、やエピステーメーってやつです)。古典ニュートン力学がアインシュタインによって葬り去られたように、ゲーデルの不完全性定理が数学の絶対性を鼻で笑ってしまったように、科学的真理というのも、絶対ではないのです。

「高名な学者ができる、ということは絶対できる。高名な学者ができないということは、たいていできる」とは誰かの言葉です。私は自分の思考全般を、権威や常識や、本質という魔力を持つ言葉からなるべく遠ざけるようにしなければならないと、こういう本を読んでいて思うのです。 ああ、この本、本当に感動します...。しかし、もっと難解で専門的で分厚い前述の「生命のニューサイエンス」が1,900円で、こっちが2,200円とはどういうことか?? でも中学校の読書感想文にも使えるくらい分かりやすくて、それでいて安っぽくない骨太の理論を満喫できるこの本、是非読んでください!!